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6月 国連・第15回障害者権利条約 締約国会議における発表報告(河村副理事長)

2022-06-28 09:44:31  国際

(本稿は、2022年6月に、第15回障害者権利条約締約国会議(COSP15)において国際リハビリテーション協会(RI)と「オーストラリアの障害者(People with Disabilities Australia)」が共同主催したサイド・イベントで発表された”The Sendai Framework for Disaster Risk Reduction: evolution and future perspective”を日本語に翻訳したものです。)

仙台防災枠組み
~進化と将来の展望~

河村 宏
特定非営利活動法人支援技術開発機構(ATDO) 副理事長
RI/ICTA(技術とアクセシビリティに関する国際委員会)グローバル委員長

  1. はじめに

    仙台防災枠組は、障害者を、災害リスク軽減(DRR)におけるユニバーサルデザインを推進する人材と位置付けている。
    障害者の個人やグループの優れた実践は、障害者が実際にDRRのステークホルダーであることを証明している。
    しかし、障害の有無に関わらず、地域の防災の担い手となるためには、様々な条件がある。期待される役割と現実のギャップは、物理的環境のバリア、情報アクセシビリティのバリア、そして私たちのマインドセット(考え方)のバリアから生まれる。政策を正しく書くことは重要だが、それだけでは十分ではない。政策と現実のギャップを埋めるのは、現場での作業である。私自身、現場での研究開発のパイロットプロジェクトに参加し、そこから学んだヒントを紹介したい。

  2. 浦河のパイロットプロジェクト

    浦河べてるの家は、北海道浦河町にある精神障害がある利用者による自助グループであり、そのメンバー160名のほとんどは、重度の心理社会的障害を抱えている。浦河べてるの家のメンバーは、日本で最も地震が起こりやすい地域に住んでいるため、津波の危険にさらされている。
    国立障害者リハビリテーションセンター研究所(以下NRCD)、DAISYコンソーシアム、INRIA、CWIは、2005年に浦河プロジェクト憲章に基づき、アクセシブルでわかりやすいマルチメディアの標準規格を共同で開発した。浦河べてるの家の津波避難マニュアル作成は、開発される標準規格を評価するための実践として確認された。
    日米の自閉症スペクトラム関係者と協力し、NRCDはパイロットプロジェクトの実施を主導し、浦河べてるの家および地域全体のための使いやすい津波避難マニュアルを開発した。

    このパイロットプロジェクトは3年間にわたって現地活動と国際的な活動によって実施された。

  3. 浦河町での成果

    マルチメディアDAISY形式の津波避難マニュアルは、浦河べてるの家の会員に歓迎された。日本語、英語、タイ語版のマニュアルがダウンロード可能である
    べてるの家のメンバーは、このマニュアルおよび、それを各グループホーム用に調整したものを利用し、更にソーシャル・スキル・トレーニング(SST)プログラムと組み合わせて、定期的に津波避難訓練を実施した。浦河町役場や協力する自治会からの支援もあった。

    浦河町内での国際共同研究の成果は、大きく分けて4つある。

    • 浦河べてるの家のメンバーは、昼と夜、夏と冬のそれぞれに、少なくとも年4回の定期的な津波避難訓練を実施した。ほとんどのメンバーが、「仲間と一緒に避難すれば大丈夫」と確信している。
    • 2011年3月11日、浦河町が2.7mの津波に襲われたとき、浦河べてるの家のメンバーは、自然に地域の率先避難者となり、地域全体の避難のきっかけとなった。その結果、その日、浦河町では大きな経済的被害はあったが人的被害はなかった。これは、障害者が地域の防災の担い手になり得ることを示す良い証拠となった。
    • 浦河べてるの家のメンバーは、津波について、いつ、どこに避難すればよいかをよく知っている人たち、というイメージが町内にできた。
    • 浦河町の警察署と消防署は、浦河べてるの家の定期的な津波避難訓練を公式に支援し、その訓練を近隣にも拡大することを提案するようになった。

  4. 国際標準規格開発の成果

    国際標準規格の開発においては、浦河プロジェクト憲章の大きな成果として、W3CのSMIL3.0とそのDAISYプロファイルの完成を挙げることができる。SMIL3.0により、EPUBメディアオーバーレイはテキストと音声の同期をとることができるようになった。これにより、DAISYからアクセシブルなEPUBへのスムーズな移行が保障される。
    もう一つの重要な成果は、アクセシビリティに関わる国際標準規格の開発に取り組んできた専門のIT開発者のグループの形成である。プロのIT開発者と浦河の人々との現場での交流は、彼らのこれまでの優れた仕事の強力な動機付けとなった。
    現在、EPUB Accessibility 1.0がISO規格として発行されており、欧州アクセシビリティ法のような電子出版物のアクセシビリティ規制をサポートすることになる。法的な情報アクセシビリティの確保は、出版物におけるアクセシブルな情報発信を促進する。このような情報インフラの整備は、障害者を含む一般市民のリスク理解を深めることに貢献する。

  5. 情報アクセシビリティを促進する標準規格開発のためのインクルーシブな国際共同研究開発:結論

    災害の早期警戒や緊急時の通信に動画が必要とされることが多くなり、手話、キャプション(自動翻訳を含む)、音声解説に対応したアクセシブルな動画のニーズが高まり、重要視されている。このようなニーズに対応するためにエクアドルで実験が行われているITU-T H.702に準拠したいわゆる「アウト・スクリーン」方式のテレビ放送の導入は、アクセシブルな早期警報を実現するために本当に重要である。
    すべての人が満足する解決策、つまりユニバーサルデザインプロセスを実現するためには、法的な環境整備のプロセスに加えて、研究開発プロセスにも障害者が参加することが重要である。

注釈

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