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DAISYプラネット 2018年10月号

2018-11-21 11:58:13  DAISY/EPUB情報

DAISYコンソーシアムのニュースレター「DAISYプラネット2018年10月号」が配信されました。http://www.daisy.org/planet-2018-10

以下、概要を日本語にしました。

トピックは以下の4つです。

(1) マラケシュ急行がやってくる

(2) インドネシアでのDAISYトレーニング

(3) アクセシブルな電車・地下鉄駅、バス停…どこにでも!オランダでの60年の経験を糧に

(4) 出版業界におけるアクセシビリティの受容を応援しよう


(1) マラケシュ急行がやってくる

Scott C. LaBarre原文筆 (*訳注)

2018年10月11日筆

2018年9月25日、アメリカ合衆国政府下院は全会一致でマラケシュ条約2018年施行法S.2559(S.2559, the Marrakesh Treaty Implementation Act of 2018)を通過させた。この施行法により、6月末に上院が承認した通り、合衆国の著作権法がマラケシュ条約に則したものに改正された。つい昨日、10月10日に、トランプ大統領はS.2559に署名し、これでこの法が成立した。この結果、アメリカ合衆国は今にも世界知的所有権機関(WIPO)に批准を通知することができる。これは、この国が「マラケシュ急行」に乗り込んだことを意味する。

当時はわからなかったが、私の「マラケシュ急行」の旅は、ウイルスにより視力を失った10歳の時に始まった。幼い私は本が好きだったし、読書を楽しむためには視力が絶対に必要なものであると自然に考えていた。視力を失った後、点字と録音図書に出会い、希望は完全に失われていないことがわかったけれど、これは完全な解決ではなかった。というのも、視力を持つ友人や同僚が読んだ本が私の手元に来るまでには、幾月や幾年もかかってしまっていたのだ。

その時はほとんど知らなかったけれど、視覚障害者用の本がなかなか出版されないという問題には、著作権法が大きな障害のうちの一つとなっていた。ミネソタ州のウッドバリーで生まれ育った私は、何も知らなったが、「視覚障害者・身体障害者のための国立図書館サービス(the National Library Service for the Blind and Physically Handicapped)」や同じようなサービスを提供する機関は、逐一、本の権利者にそのアクセシブル版を作る許可を取らなければならなかった。そしてその許可は結局与えられないこともあったし、上手くいった場合もとんでもなく時間がかかった。

多くの人たちは、視力を失うことの最も悲しい点は、もう二度と身体的に「見る」ことができないことだと考える。確かに、私が最初視力を失ったときは、その「見る」感覚がないことを寂しく思った。しかし、視覚障害者としての生活が進むにつれ、より辛く悲しく感じたのは、タイムリーに情報にアクセスできないことであることに気が付いた。この状況は改善されてはいるけれど、未だに大きな障害であり続けている。

1996年に、視覚障害者連盟(the National Federation of the Blind)(以下、NFB)が米国出版社協会(the Association of American Publishers)と共に、チェーフィー改正(the Chafee Amendment)として知られるようになる案を合衆国議会に通過させ、情報アクセスの障害を取り除くための大きな一歩を踏み出した。この法律はアメリカ合衆国著作権法を修正し、承認を受けた団体が、非営利事業であれば、著作権者に許可を得ることなく、出版物のアクセシブル版を作ることができるようにした。アメリカ国内では、このチェーフィーの法案通過は、多くの問題を解決し、出版物へのよりタイムリーなアクセスを可能にしたが、世界中にある優れた豊富な情報資源へのアクセスは閉ざされたままだった。

時が経ち、世界の30%以上の国がチェーフィーと同じような法律を施行した。しかしながら、国々の間でアクセシブルな情報資源を共有できるようにするための国際的な枠組みというものがなかった。そのせいで、各国がそれぞれ同じ(*出版物をアクセシブル化する)作業をする必要があり、世界的に非効率な状況が生まれ、「視覚障害者の本の飢餓」に拍車をかけていた。この状況を鑑みて、世界盲人連合(WBU)はチェーフィー改正案のような法律を世界各国に求め、また明確に国間でのアクセシブルな出版物を共有することを認める国際的な条約採択のためのキャンペーンを開始した。NFBは、WBUのメンバーであり、2008年にこのキャンペーンに正式に参加し、ワシントンのKnowledge Ecology InternationalでWBUと世界中の関心を抱いた団体とともに、その後マラケシュ条約となる第一回草稿を起草した。

2009年に、WBUはブラジル・エクアドル・パラグアイに要請し、私たちの条約案がWIPOとその「著作権とその関連権利常任委員会」(Standing Committee on Copyright and Related Rights)の議題に挙がるようにした。2009年はまた、私がこのキャンペーンに個人的に参加するようになった年であった。NFBの理事であるMarc Maurerがアメリカ議会図書館合衆国著作権局(the U.S. Copyright Office at the Library Congress)でのヒアリングにNFBの代表として私を指名したのである。このヒアリングは、著作権局長が、アメリカがWIPOに提出された条約案の採択キャンペーンに参加すべきかどうかについて、情報を集めるためのものだった。その時から、私が乗った「マラケシュ急行」はジュネーブからジョージア共和国、アゼルバイジャン、ジャマイカ、そしてもちろんマラケシュといった様々な地域へと立ち寄った。私は、文字通り、何千時間もの時間を条約採択のためのキャンペーンに費やした。世界中で、そしてここアメリカで。

この短い記事では、私が対峙し解決しなければならなった全ての障害を到底列挙することはできない。皆さんに聞いて欲しい。この「急行」がほとんど脱線したと思った瞬間が何度もあった。マラケシュ条約は、著作権のルールの中で、消費者の権利のみに焦点を合わせ、著作権者の保護を目的としない最初の国際的な法律文書である。知的財産の世界では、これは承認しがたいものであった。さらに、私たちは、国際的な交渉において、絶えず存在する後発開発国、発展途上国と先進国の緊張関係の中に放り出された。皆さんに私たちの混乱が想像して頂けるだろうか。

2013年7月のマラケシュ外交会議(the Marrakesh Diplomatic Conference)に向かっていた時には、まだたくさんの解決されていない問題が条約の条文に残されていたし、会議は招集されていたが、WIPOの参加者には条文を承認しなければならないという義務はなかった。その2週間の会議のうち、幾度か私たちはマラケシュ条約の採択は決定的なほど絶望的だと感じることもあった。しかし、2013年の6月28日、WIPOの参加国は全会一致で採択し、その年の10月2日にアメリカは批准する意思を示した文書に調印をした。もしトランプ大統領が、S.2559への調印を2018年10月2日に行っていれば、(*同じ日に調印したということで)シンメトリカルになったのにとも思うが、8日後の(*10月10日に)行われた調印も歓迎すべきだろう。

なぜアメリカがマラケシュ条約に参加するまで、余計に5年もかかったかのだろうか。そこには、マラケシュでの交渉の間中も存在していた役所仕事の遅れや、著作権についての話し合いといった理由もあったが、新たに出現した問題もあった。ただ、結論を言うと、私たちは全てやってのけたのである!

NFBの払った努力のうち、現地要員の中で私がリードを取っていたように見られるが、実際には、内部組織・外部組織の大きなチームの努力が「マラケシュ急行」をここに連れて帰ってきた。私たちの組織に目を向けると、理事であるMaurerとRiccobonoのリーダーシップなくしては、この事業は成し遂げられなかったことは確かである。個人的には9年以上にわたる彼らの私に対する自信と信頼に感謝したい。法務政策部門のJohn PareとGabe Cazaresは替えの効かない人物であり、キャピトン・ヒル(*ワシントンD.C.)で活躍してくれた。彼らがキャピトン・ヒルで、国際的なプロジェクトに必要な多額の資金を調達しなければ、我々は何事も成し遂げられなかっただろう。上院議員のGrassley FeinsteinとCorker, Mendez、そして代議士のGoodlatte、また他の協力者と彼らのスタッフに「マラケシュ急行」を議会に導いてくれたことに感謝する。WIPOのサポートと、そして事務局長General Gurryの様々な事案で発揮されたリーダーシップなくしては、マラケシュ条約は日の光を浴びなかっただろう。他に感謝すべきであるのが、著作権の利害関係者の方々である。その中でも図書館著作権連盟(the Library Copyright Alliance)のJonathan Bandと米国出版社協会(the Association of American Publishers)のAllan Adlerに妥協策を見出し、合意形成で私たちを助けてくれたことに対して感謝する。ロサンゼルスのロヨラ・ロースクールのJustin Hughes教授に、ジュネーブとマラケシュでアメリカの交渉をリードして頂いたことにも深く感謝したい。さらに彼には政府での職務が終了した後も、プライベートの時間と資料を提供し、法として成立することになる条文の起草に多大なご貢献を頂いた。WBUの現在の理事Fred Schroeder博士、前任のオーストラリアのMaryanne Diamond、WBUの「読む権利キャンペーン(Right to Read Campaign)」の委員長であるイギリスのChris Friendにも感謝申し上げる。ここでお名前を上げることはできない数えきれないほどの法律・政策団体、DAISYを始めたとした図書館団体にもお礼を申し上げたい。最後に、私の家族、妻Anahit、子供Alex and Emilにありがとうと言わせて頂く。彼らがいなければ、私は世界を回り、リテラシーと自由への機運に火をつけることはできなかっただろう。

ヨーロッパ連合と日本が2018年10月1日にWIPOの批准書を寄託したこと、そしてアメリカの条約批准により、この世界は視覚障害者とプリント・ディサビリティの人たちにとって大きく変わる。マラケシュ条約批准国に住む視覚障害者とプリント・ディサビリティの人たちが、何百万ものアクセシブルなモノにアクセスできるようになるのだ。今日の時点での計算では、EU諸国とアメリカを入れると、71の国がマラケシュ条約連合を成している。これは良いスタートだが、193のWIPO加盟国がマラケシュ条約を批准するまでは、この仕事は終わりではない。情報へのアクセスができないことが、最も大きな障害であった。マラケシュ条約の採択によって私たちはこの障害を壊しつつあるのだ。ここで立ち止まることはできない。

私はここ数年、クロスビー、スティルス&ナッシュの「マラケシュ急行」(*アメリカのロックグループ クロスビー、スティルス&ナッシュには「Marrakesh Express」という曲がある)に(*マラケシュ繋がりから)恥も外聞もなくよく言及していた。この曲にも感謝しなければならないが、私の「マラケシュ急行」は(*「急行」というより)ジェットコースターのようであった。私にとっては、この「急行」の旅は1978年のあの10月の日と共にあった。その日、私は自分が視覚障害者であること、そして生涯にわたってそうであることを悟った。私は、見ることのできない情報を読むこともアクセスすることができない状態に押し込められたように感じた。幸運にも、私は解放と自由の感覚に目覚め、自分の欲する人生を生きられることを知った。「マラケシュの道」を歩む間に感じていた気持ち、WIPOがマラケシュで条約を採択した時、上院がその批准を決めた7月、そして議会がS.2559を通過させた先週に感じたのは正にこの自由と解放の感覚だった。マラケシュ条約の採択とそのアメリカでの批准の結果、視覚障害者とプリント・ディサビリティの人たちの情報アクセスは国際的な人権であり、優先すべき課題であることをこの世界は決定的に明白にしたのだ。NFBの創設者であるJacobus tenBroek博士は1966年の法案レビュー記事の中で、勇猛に、視覚障害者と他の障害者はこの世界に生きる権利がある、と述べた。昨晩のマラケシュ条約2018年施行法の通過は、私たちがこの権利を守るための長年の努力が報われたことを意味している。ただ、まだこの「旅」はまだ終わっていない。「マラケシュ急行」とそれが体現する自由と平等の誓約をこの地に連れてくるため、これからも努力し続けよう!

(2)インドネシアでのDAISYトレーニング

インドネシア・ジャカルタのミトラ・ネトラ財団(The Mitra Netra Foundation)は長年に渡ってアクセシブルな教材を作ってきた。ただ、最近までそれはトーキング・ブックと点字に限られていた。

今年の初め、WIPOとアクセシブルブック・コンソーシアム(Accessible Books Consortium)プロジェクトから資金を提供を受け、DAISYコンソーシアムはミトラ・ネトラ財団と共に10名の参加者を募り5日間のトレーニングコースを主催し、新しいEPUB3のフォーマットでリソースを作る技術を教えた。

多くの参加者は点字製作と朗読者による録音図書製作の経験があった。何人かはラテックスを使って数式を書く方法を知っていたり、オープンソースのツールを使ってEPUB2のファイルの作成を試したりしていた。参加者の技術レベルは高く、MathMLを含むEPUB3の作成のトレーニングに充分ついてきてくれた。多くの参加者は英語のコミュニケーション能力は無かったが、講師の英語での説明が理解できる参加者と組みになり、インドネシア語の翻訳を聞くことができた。

トレーニングは以下の成果をあげることを目的としていた。

・デジタル・コンテンツにおけるアクセシビリティの必要性の理解

・支援技術の機能とアクセスを阻害する障害への基本的な理解

・アクセシブル・コンテンツを準備するための基本的なガイドラインへの理解

・DAISYとEPUB3のリーディング・ツールの使い方

・文書をアクセシブルな機能を持ったEPUB3へ変換する方法

・点字やラージプリントといった別のフォーマットへのEPUBを変換させる方法や利用への理解

・Eブックに数学や科学のコンテンツを含む方法

・イメージ・ディスクリプションやその他のデジタル出版の問題への理解

ソフトウェア、チュートリアルやサンプルリソース、トレーニング・ビデオなどの一通りの教材と5日間のプレゼンテーションのスライドが全ての参加者に提供された。

5日間の授業と実践的な練習で、参加者たちは好感触を得たようである。彼らはEPUB3フォーマットでのアクセシブル・ブック製作の新しいツールと技術を使う自信をもったようである。

ミトラ・ネトラ財団はこの新しく学んだ技術を利用し、アクセシブル・ブック製作の専任チームを作り、DAISYコンソーシアムからの技術サポートを受けることになる。

WIPOとアクセシブルブック・コンソーシアム(Accessible Books Consortium)にこの活動を支援して頂いたことを感謝する。

(3)アクセシブルな電車・地下鉄駅、バス停…どこにでも!オランダでの60年の経験を糧に

オランダのDediconの主要なビジネスは、オランダ政府教育・文化・科学省の委託を受け、教材の製作と改良を行うことである。またDediconはオランダ盲人図書館のいくつものサービスに協力している。

「Dediconは毎年、何千ものオーディオブック、何百もの点字図書そして何千号もの新聞や雑誌をオーディオにしてきた。私たちは、誰もが“完全に”参加できる社会を目標にしている。それが私たちがどんどんと地方自治体や、公共交通社、博物館などの団体と共に仕事をしている理由である。こうした団体は、アクセシビリティの必要性を認識し、かつその付加価値に期待し、アドバイスと製品を求めDediconにやってくる。私たちは、オンデマンドの点字とCD製作に加え、タクタイル・グラフィックスTactile Graphics(触図;触って認識する図のこと)を提供している」と、Dedicon社のアクセシビリティ担当のSander Ewaldは話す。

「Dediconの製品のおかげで、オランダでは、アクセシブルな交通施設が次々増えている。視覚障害者にとっては、電車や地下鉄、バスでの移動は大きなチャレンジだ。どこでチケットを買えばいいのか?エレベーターはどこなのか?どのプラットフォームから乗りたい電車やトラムは出るのか?どうやったらそこにたどり着くのか?

公共交通機関からの要請があり、私たちは地図をスキャンし、アクセシブルなタクタイル(触覚性の)地図を作成した。この浮彫の地図はラージプリント、点字、音声、QRコードといった形式での情報を表示するとともに、浮彫での(触覚でわかる)情報を提供する。QRコードをスキャンすることにより、旅行者は駅の情報や最短の乗換ルート案内の音声情報を受け取ることができる。いくつかの場所では、旅行者は家用のタクタイル地図を注文し、旅の準備に使うことができる。」

・画像をタクタイル・グラフィックスに変換する

画像をタクタイル図に変換するのはただ特別なプリンターを使ってのコピー・印刷が必要なのではない。何千語に匹敵する情報を持つ画像をその詳細まで(タクタイル・グラフィックスに)変換することはかしこい方法ではない。そういった意味で、この技術は洗練されたものだ。私たちの専門家は、どのようにして盲人や弱視の方といった視覚障害者のために旧来の画像をタクタイル・グラフィックスに変換するかということを心得ている。線路や案内サイン、エレベーターの位置などは変更すべき情報であり、何が変換する必要がない情報か、といったことだ。私たちのタクタイル・グラフィックスのスペシャリストは、正しく画像を変更し、その生産までのロードマップを作ることができる。Adobeフォトショップやイラストレーターで作られたファイルをもとに新たなカラーファイルとデプス・ファイルを作るのだ。オランダでの長年に渡る経験を糧に、私たちは世界中にこのサービスを提供できることを嬉しく思う。

・耐久性のあるプリントの生産

技術の進歩により、レイヤーのある画像の印刷が可能となり、浮彫を作ることができるようになった。この技術は「エレベーテッド印刷」(elevated printing)と呼ばれる。この特殊な技術は、何世代にも渡って耐久性を保つ9cmから244cmの大小のプリント物の印刷に適している。その素材は、天気の変化に強く、そのため屋外での使用に最適だ。「エレベーテッド印刷」は公共交通機関の地図に適しているが、博物館や市場、建物の避難ルートの表示にも使えるだろう。タクタイル・グラフィックスには音声や点字でさらに情報を付け足すこともよく行われる。

・詳細について

世界中の人々に提供されているDediconの新たなサービスに関する詳細に関してはhttps://www.dedicon.nl/のウエブサイトをご覧ください。

DediconのSander EwaldとDave van Hemertにこの記事執筆のため、ご協力いただいたことを感謝します。

(4)出版業界におけるアクセシビリティの受容を応援しよう

標準化の促進と、インクルーシブな出版の採用により、主要な出版社は、様々な方法で出版物にアクセスする消費者のユーザーエクスペリエンスを一様に向上させている。しかし、奉仕精神を持っていたとしても、アクセシビリティを導入することは、大きなチャレンジである。DAISYコンソーシアムは、そのパートナー団体と共に出版社のアクセシビリティ導入を手助けしている。以下に、その骨子をまとめる。

・インクルーシブな出版

アクセシビリティ導入に関して、出版業界の主流では何が起きているのか?どんなものが最新のスタンダードなのか?どんなツールが役に立つのか?出版のプロはどこに行けば、こうした新しい開発技術について学べるのか?

InclusivePublishing.orgはDAISYコンソーシアムが主導し、グーグルの支援を受けて作られたウェブサイトである。このサイトは、アクセシブルな出版物に関するニュース、情報、イベントの国際的な集積地として機能する。Eブックはアクセシビリティに大きく寄与するものである。インクルーシブな出版の関連情報や、業界の最新の動向を提供し、またそのトレーニングリソース、標準規格開発の最適実践の方法を提供する。この点は業界のリーダーたちにも一目おかれている。

DAISYコミュニティの多くの人たちが気づいているように、国際的なEブックの規格であるEPUB3の登場はアクセシブルな出版を達成するうえで絶好の機会である。出版社がEPUB3の様々な機能を活かすようになれば、それはインクルーシブな出版がスタンダードとなるまたとないチャンスなのだ。出版業界の多くの人たちが、そのルーティン・ワークの中でアクセシビリティへの配慮を考慮に入れ、後で特別な変換することのない支援技術を利用して読むことができるコンテンツを作っている。

InclusivePublishing.orgは、主要なアクセシブルなコンテンツの製作のおける進歩を享受し、閲覧者に情報を提供するための記事やインタビュー、タイムリーなニュースをアップしたりするなど、情報集積地として機能している。様々な地域で、アクセシビリティと関連した面白い仕事が成されていることをこのサイトを通じて皆に知って頂きたい。定期的なニュースレターツイッターもある。

・標準規格への支援

テクノロジーの分野で働いている人たちと「標準規格」との関係は、愛憎入り乱れている。特に標準規格書の扱いに関しては特にそうだ。世界一良く書けている標準規格書であっても、理解するのは難しい。比較的最近参入した人や、時たま関わる人にとって標準規格書は頭痛の種である。しかし、EPUB規格に関して言うならば、役立つツールが手軽に手に入る。

Ace by DAISYツールは2018年初めに開始された、EPUBファイルをEPUBアクセシビリティ仕様書に照らし合わせて簡単にチェックするものである。問題があるときは、その関連する情報へのリンクも表示される。これまで既に、好感触なフィードバックを幾つか頂き、何社かの主要な出版社がEPUBファイルのチェックのため、このAceをワークフローの中に組み入れるようになった。しかし、私たちはAceの進化を止めるつもりはない。もうすぐ、アクセシブルなEPUBファイルをさらに簡単にチェックする素晴らしい成果を発表する予定である。その際はDAISYとインクルーシブ出版のウェブサイトで発表を行うつもりである。

Eブックの販売者の多くはEPUB仕様書に照らす合わせるテストをそのEブック提供者に求めている。その際に使われるツールは「epubcheck」と呼ばれている。長年に渡ってepubcheckはDAISYを始めとした団体からの貢献のもとに開発されてきた。しかし、現行のepubcheckは最も新しい仕様書に合わせてアップグレードされなくてはならない。今年の初め、W3Cはこの次の世代のEブックにあわせたepubcheckのアップグレートを担う業者選定のコンペを開催した。その結果、DAISYコンソーシアムがこの任を受けることとなった。このアップグレードにおいて最も素晴らしいことは、アクセシビリティのテスト基準が主要なチェックツールに統合されることである。そのおかげで、全ての出版社と小売業者は出版物がアクセシビリティをサポートしているかチェックできる。さらに、必要なメタデータを統合することにより、販売の段階で出版物のアクセシビリティを表示することができるオプションもついている。

・業界イベントにおける認知活動

DAISYコンソーシアムのスタッフは、定期的に業界イベントに参加し、より大きな業界とつながりを持ち、最新の開発成果や革新に目を向けている。最近では、テネシー州ナシュビルで行われたデジタルブック・ワールドDigital Book WorldでMarisa DeMeglioがプレゼンテーションを行った。その内容は、現代の出版ワークフローにおけるアクセシビリティであり、Ace by DAISYの実践的なデモンストレーションも行われた。

DAISYは11月に行われるAccessing Higher Groundカンファレンスにおいても、Book Industry Study Group (BISG)のトラックに参加し、いくつものセッションを行う予定である。セッションは次の内容となる。

・結局このEPUBにまつわる混乱は何なのか?

・出版と同時にアクセシブルなソフトウェア(Born accessible software)を買う方法とその内容について

我々は、会議の後にこのプレゼンテーションの詳細をお伝えする予定だ。

・波に乗って

InclusivePublishing.orgの閲覧者や、私たちの提供するツールの利用者、ニュースレターの購読者、イベントでお会いする方々から聞くことはだいたい一貫している。出版コミュニティの主流派はインクルーシブな出版を取り入れることに好意的であるということだ。最近の私たちの仕事はアクセシビリティを広める運動というよりも、どのようにしてより効率的に、より多くの出版業界の人びとがアクセシビリティを受容するための手助けをするか、ということにシフトしている。まだまだこの新しいアプローチを完全に受け入れていない出版社も多々あるが、現在話し合われていることは、出版業界がアクセシビリティを本当に受容するかということでは最早なく、いつどのようにそれを達成するかということである。


以上です。

掲載内容について、お気づきの点等ありましたら、info@atdo.jpにお寄せください。

R.T.

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