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特定非営利活動法人 支援技術開発機構

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2008年CSUNカンファレンス 報告

2009-02-20 01:50:21  会議・講習等報告

昨年のCSUNカンファレンスの報告です。

今年は、2009年3月16日から21日開催です。

2008年3月10日から15日に、米国カリフォルニア州ロサンジェルスにおいて、カリフォルニア州立大学ノースリッジ校障害センターの、第23回障害者と技術の国際会議が開催された。275以上の講演と、135以上の出展者による展示が行われた。

( http://letsgoexpo.com/expo/index.cfm?EID=80000093 )

印象に残ったのは、学習障害者を含む印刷物を読めない人々(Persons with Print Disabilities)の「読み書き」の支援技術がたくさんあったことである。読む支援として、マイクロソフト・ワード、PDF、テキストファイル、DAISY等のフォーマットの電子ファイルをTTS(音声合成)を活用して読み上げたり、OCR(文字認識)とパソコン、専用福祉機器、携帯電話等で読み取って発声する技術が多数あった。環境整備としてこれらの支援技術でなるべくアクセスしやすいような情報提供の動きも活発だ。また、書く支援としては、単語予測や辞書等の機能のある複合ツール等があった。障害のある当事者が多数参加していたのも印象的であった。盲導犬、白杖、車椅子や読み上げ機能のある携帯電話を会場内で多数見かけた。

私が参加したいくつかの講演と、展示に関して報告する。

展示会場

3月11日 プリカンファレンス

「支援技術の概要と選択方法」

アメリカにおける支援技術の概要と、支援技術の選択方法に関する講演があった。数多い支援技術の中から、効率よく適切な支援技術を選択するための知識を得るという趣旨で、要点は下記のようなものであった。

* アメリカにおける支援技術に関わる法律は次のようなものがあり、これらが支援のベースになっている。障害者教育法(IDEA Individuals With Disabilities Education Act)、支援技術法(ATA Assistive Technology Act)、障害を持つアメリカ人法(ADA Americans with Disabilities Act)、リハビリテーション法第 508 条。

* 支援技術の選択と活用はチームで行うことが重要で、そのチームの中心になるのは使用する当事者本人である。

* 障害のカテゴリーではなくて、その人のニーズを見て支援技術を選択するべきである。同じ障害でも違うものが必要なときもあるし、違う障害でも同じものがつかえるときもある。(例:パソコンの読み上げ機能は、視覚障害者だけでなく、読みの障害のある人にとっても大変有益である)

* どう選択するかよりも、どう使うのかが、支援技術を活用する秘訣。具体的な事例をあげて、その際に何が必要か、何で困っているのかを考える。

 支援技術を選ぶのに重要な3つのポイントとして、「どこで」「いつ」「何を達成するために」必要かという点が挙げられた。

* 技術の進歩と、人の成長によっても、支援技術の選択は変化する。「使う人」「環境」「成し遂げる事柄」「ツール」という4つの変化する尺度がある。

* 様々な支援技術の例が紹介されたが、知覚障害(視覚・聴覚障害等)、認知・知的障害(ディスレクシア、ADHD、自閉症、知的障害等)の「読む」「書く」ことの支援に使われる技術がローテクからハイテクまで多かった。日本で見ないものとして、ディスレクシア用の読み書き支援ソフトがあった。

WYNN(http://www.freedomscientific.com/LSG/products/wynn.asp)やKarzwell(http://www.kurzweiledu.com/kurz3000.aspx) 等である。

3月12日 メインカンファレンス

「オープニング」

2008年のCSUNカンファレンスのオープニングスピーチは、テキストのみのDAISY図書を、インターネットで配信している非営利団体である、Benetech (ベネテック)の創始者の、Jim Fruchterman(ジム・フラクタマン) であった。フラクタマン氏は、シリコンバレーでロケットの技術者であったが、技術を人の役に立たせたいと考えてきた。技術を活用して、教育、アクセサビリティー、人権、環境等に関わる起業家として、数々の賞を受賞している。

ベネテックのDAISY図書は、アメリカ全土の印刷物を読むことに困難のある人たち(ディスレクシア、ADHD、自閉症スペクトラム、視覚障害、肢体不自由、精神障害等)が活用している。最近では、国外への貸し出しも出版社から著作権の許諾が取れる範囲で始めた。利用者は、ダウンロードしたDAISY図書を、パソコン等のTTSを活用して読む。

ジム・フラクタマン氏

テキストのみのDAISYの利点は、データは小さく、ダウンロードが容易である上に、DAISYの様々なナビゲーション機能の活用ができる点である。また、テキストデータがあれば、点字、拡大図書、音声図書等多様にアウトプットできる。

2007年9月28日、アメリカ合衆国教育省の、特別教育プログラム(Office of Special Education Programs)は、特別なニーズのある生徒への質の高い教科書と教材の提供により、障害者教育法(IDEA)の目的を達成するため、ベネテックに5年間3200万ドルを支給することを発表した。ベネテックは、5年間で高質なDAISYと点字フォーマットの図書を新たに10万タイトル作成する予定だ。

* ビデオ:http://letsgoexpo.com/expo/index.cfm?EID=80000093

12日メインカンファレンス

「アクセシブルなPDFの作成方法」

PDFファイルを作成する際、アクセシビリティに関わることで注意すべき点に関しての講演であった。構造化された見出しの設定、画像にaltテキストを入れること、表を作成する際はtab等でレイアウトを作成せずに表の作成オプションを使用すること、保存する際の注意点などがあった。

( http://www.adobe.com/accessibility/ )

「スカンジナビアにおける、大人のディスレクシアのための支援技術」

デンマークにおいて行われた、ICTリュックサック プロジェクトにおいて、支援技術を使用した際と使用しない場合での、文章の内容理解の違いに関する研究報告があった。また、雇用者、行政、障害者自身、また広く一般に向けて作成された、スカンジナビア全土で、支援技術を活用した読み・書きの支援に関するインタビューを含むDVDの紹介があった。

印象に残ったのは下記の点である。

デンマークでは、人口の20%が印刷物を読むことに障害がある。

読みの評価においては、文字の音声化(デコーディング)と内容理解の2つの側面がある。

スカンジナビアの国々では、ディスレクシアに対する読み・書きの支援が教育現場や職場で浸透しているようで、支援技術を活用することで、読み・書きに困難があっても他の人と同じように学習や仕事ができる。

カメラで文字の写真を撮ると、OCRとTTSを活用して読み上げのできる携帯電話も、活用されている支援技術の一例として紹介された。

( http://www.nuh.fi/english/projekt.html )

「アクセシブルなテキストの製作:集中型製作システム」

カナダのバンクーバーにある、大学図書館サービス(CILS BC College and Institute Library Services)でのDAISY図書製作と提供までの紹介があった。

学生は、自分に必要なフォーマットや学年等の情報を登録する。必要なときに生徒はCILSに要求を出す。CILSは、いくつかのデータベースで検索して、既存のものがあれば、ダウンロードできるという情報を提供する。ない場合は、製作をする。まずソース(TXT、HTML、PDF、印刷物からスキャン)からeテキストを作成する(テキストデータや、テキストデータの抽出できるPDF等から作成する場合は、文字のチェックが必要ないので良い。それ以外の場合はスキャンして抽出)。その後、必要に応じて、音声読み上げ可能なPDF、デジタル録音図書、フルテキストシンクロしたTTS音声のDAISY、人が録音したDAISY、拡大図書、点字等に変換して提供する。

コーディネートは、学校の障害学生コーディネーター(Disability Coordinator)が行い、事前にどの教科書を使うかCILSに連絡がはいる。サービス利用者の70%は学習障害者。

(http://www.langara.bc.ca/cils/ )

集中型製作システムフローチャート

マイクロソフトのセーブ・アズ・デイジー(Save As DAISY)発表レセプション

3月21日にベータ版がリリースされる予定である、Save As DAISYの紹介が、マイクロソフトの主催するレセプションであった。

ワードのアドオンソフトで、ワードで作成された文書を、ファイルメニューからDAISY保存のオプションを選択するだけで、DAISYフォーマットのファイルが生成できるというものである。

マイクロソフトとDAISYコンソーシアムのコラボレーションのプロジェクトである。

( http://www.daisy.org/projects/save-as-daisy-microsoft/ )

ジョージ・カーシャー氏

13日メインカンファレンス

「Bookshare.org の活用方法」

ブックシェア(BookShare.org)の活用方法が紹介された。

参加者には教員も多く、教科書・教材のNIMASフォーマット(DAISYと同じ)のものをどのように入手できるか具体的な質問が出ていた。高校までの印刷物を読むことに障害のある生徒は、教科書・教材を無償で手に入れることができる。ダウンロードは、主に教員が行う。

( http://www.bookshare.org/web/Welcome.html )

ブックシェアプレゼン会場

「数式のあるDAISY図書の製作から再生まで」

これまで、数式や化学式は、音声合成を使用してパソコンで読むことが難しかった。技術の進歩により、少しずつ改善されている。このセッションでは、新しい技術を利用して、数式の入った印刷された文書をDAISYフォーマットで読むまでの過程が紹介された。

スキャンした文書を、数式の読めるOCRにかけて、その後DAISYフォーマットに変換して、数式の読める再生ソフトでTTSを利用して読む様子が紹介された。

再生に使用されたのはghPlayerであった。

ghPlayerは、一般的なDAISY再生ソフトの機能に加え、次のような機能がある。

TTSが組み込まれているので、テキストのみのDAISY(事前に録音された音声が全くない)をTTSで読み上げながら再生できる。また、テキストやワードの文書をTTSを使って読み上げられる。

テキストやワードは、DAISYとして保存というオプションを使ってDAISY形式で保存できる。

DAISY3規格に対応している。

文字を16倍まで拡大できる。また、画像も文字と連動して拡大できる。

( http://www.ghbraille.com/index.html )

GHプレーやで数式を再生している画面 GHプレーヤで画面を拡大している様子

展示:

フュージョン(Fusion)

学習障害者のための「読み書き」のためのツール

キーボードと小さなディスプレイがついたもの。TTSの機能があり、書いたテキストの読み上げができる。作成したテキストは、パソコンにコピーすると、ワードファイルで表示され、そのまま編集が可能。パソコンにはいているテキストをコピーして、フュージョンで音声と共に読むこともできる。

単語予測や、画像・文字の拡大表示等の機能もある。パソコンの10分の1の重さで10分の1の値段なので、携帯に便利。壊れにくいのも特徴。ノートの変わりになりそう。 ( http://www.writerlearning.com/fusion.html )

フュージョン展示

ドルフィン(Dolphin)

いくつかのDAISYを製作できるソフトとスクリーンリーダーや画面表示拡大ソフト等を展示していた。

• イージー・コンバータ(EasyConverter)

様々なフォーマットのものを、読む人の好みに合ったアクセシブルなフォーマットに変換するソフト。

ワード、PDF、スキャンした文書、テキスト、HTML等のファイルを変換できる。

DAISY、点字、mp3音声ファイル、拡大図書等にアウトプットできる。

OCR(文字認識)と、TTS(音声合成)が組み込まれている。

( http://www.yourdolphin.com/productdetail.asp?id=25 )

• パブリッシャー(Publisher)

テキスト、画像、音声のマルチメディア編集ができるDAISY製作ソフト。

センテンスの長さの変更、人の声による録音・TTSによる録音と編集、自動でテキストの区切りを認識してのマークアップ、スキップアイテムの追加等ができる。

( http://www.yourdolphin.com/productdetail.asp?id=12 )

• プロデューサー(Producer)

マイクロソフトワードのアドオンソフトで、インストールするとワードにPeoducerの機能が増える。

センテンスごとのハイライトと、TTSによる読み上げが可能。

DAISYとして保存ができるので、保存したものをDAISY再生ソフトで再生したり、再度編集したりできる。

( http://www.yourdolphin.com/productdetail.asp?id=10 )

ドルフィンパンフレット

Human Ware

いくつかのDAISY再生ハードウェアが展示されていた。

Class Mate

学習障害者向けのポータブルDAISYプレーヤー。小さな画面があり、表示される文字がセンテンスごとにハイライトされる。パソコンのDAISY再生ソフトと同じ操作が可能。

TTSが組み込まれていて、テキストデータの読み上げも可能。声が録音されている場合は、TTSと声でスイッチできる。文字サイズ、色等の表示設定の変更もできる。

日本語対応はまだされていない。

(http://www.humanware.com/en-asia/products/learning_disabilities/_details/id_90/classmate_reader.html )

Victor reader Stream(ビクターリーダー・ストリーム) ビクターリーダー・ストリーム小さくて持ち運びに便利。TTS内臓でDAISY、テキスト、HTMLファイル等の読み上げができる。人の声と音声合成との切り替えが可能。見出し、ページ等へのジャンプ、センテンス、単語ごとのナビゲーションが可能。速度の変更、ブックマーク機能、等の機能がある。音楽等も入れられる。録音もできる。メディアはSDカード。

( http://www.humanware.com/en-asia/products/dtb_players/compact_models/_details/id_81/victorreader_stream.html )

ヒューマン・ウェアのパンフレット

Victor reader Vive (ビクターリーダー・バイブ) ビクターリーダー・バイブ

CDウォークマン型のDAISYプレーヤー。DAISYの再生ができる。見出し、ページ等へのジャンプ、センテンスごとのナビゲーションが可能。速度の変更、ブックマーク機能、等の機能がある。

( http://www.humanware.com/en-asia/products/dtb_players/compact_models/_details/id_60/victor_reader_wave.html )

Victor Reader Classic(ビクターリーダー・クラシック) 

DAISYの再生ができる。見出し、ページ等へのジャンプ、センテンスごとのナビゲーションが可能。速度の変更、ブックマーク機能、等の機能がある。

( http://www.humanware.com/en-asia/products/dtb_players/classic_models )

学習障害者のための「読み書き」のためのソフト

展示の中に、学習障害者用の読み書きのための複合ソフトがいくつかあった。

text help(テキストヘルプ)( http://www.texthelp.com/page.asp )

テキストヘルプパンフ写真

WYNN(ウィン)(http://www.freedomscientific.com/LSG/products/wynn.asp) WYNNパンフレット写真

Kurzweil(カーズウェル)(http://www.kurzweiledu.com/kurz3000.aspx)

等・・・

主な機能は下記のものである。

• 読む

TTSによる音声読み上げ(文章、単語、スペル)、フォントや行間、文字色、マスキング等

• 書く

単語予測、検索、スペルチェック等(学習障害者のよくする間違いに、音声情報から、例えば、schoolと書くのにskoolと書いてしまう。市販のワードだと、skと書いた事典でスペルチェックの選択肢にschoolは出てこないが、学習障害者向けの機能として活用されている。)

• ファイルマネジメント

スキャン、OCR、保存等

• 学習

辞書、色ペン、リスト作成、ブックマーク、メモ、録音メモ

PLEXTOR(プレクスター)

Plextalk PTR2 (プレクストーク・ピーティーアール2)DAISY図書の再生、録音とDAISY編集ができる。見出し、ページ等へのジャンプ、センテンスごとのナビゲーションが可能。速度の変更、ブックマーク機能、等の機能がある。CDとコンパクトフラッシュの利用ができる。

( http://www.plextalk.com/jp/products/ptr2_01.html )

PTN(ピーティーエヌ)

簡単な操作でDAISYの再生ができる。見出し、ページ等へのジャンプ、センテンスごとのナビゲーションが可能。速度の変更、ブックマーク機能、等の機能がある。

(http://www.plextalk.com/jp/products/ptn1_01.html )

新商品

発売予定の DAISY録音のできるポータブル・プレーヤ の紹介があった。PTR2ではCDドライブがついていたので、持ち運びには少し大きかったが、新製品はCDドライブがなく、約150グラム、縦約11cm、横約6センチと随分小さくて持ち運びに便利である。

これひとつでDAISY形式での録音と再生ができるので、授業や講演会に持っていって、録音して見出しやポイントに印しをつけて、後で聞きなおすのに役立ちそうである。(これは後にプレクストークポケットとして発売されている)

プレクストークポケット

RFB&D (視覚障害者とディスレクシアのための録音)

様々なDAISY再生ツールが置いてあった。

書き写真は奥から、Victor reader Stream(ビクターリーダー・ストリーム)、Victor reader Vive (ビクターリーダー・バイブ)、Plextalk PTR2 (プレクストーク・ピーティーアール2)、PTN(ピーティーエヌ)Victor Reader Classic(ビクターリーダー・クラシック) 

(http://www.rfbd.org/ )

RFB&D展示

M.H.

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