メインコンテンツへスキップ
ATDO

特定非営利活動法人 支援技術開発機構

ユニバーサルデザインと支援技術で実現する知識と情報の共有

当サイト内を検索できます。
お問い合わせ
Facebook

ATIA2011レポート:アメリカの支援技術と数式のサポート

2011-02-22 12:30:15  国際

ATIA2011レポート:アメリカの支援技術と数式のサポート

ATDO 濱田麻邑

 2011年1月27日から29日米国フロリダ州オーランドでATIA (Assistive Technology Industry Association/全米支援技術産業協会)2011が開催された。約270のセッションがおこなわれ、約130の展示があり、アメリカだけでなくイギリス、ベルギー、韓国など海外企業の展示もあった。参加者は、障害のある当事者や学校の支援技術担当者、支援技術関係の企業、また研究者や支援者が多くみられた。

写真:展示ブース

 電子書籍リーダー、スマートフォン、iPad等のポータブルデバイスの流行により、それらの活用に関するセッションが多かった。また、数式を扱えるソフトが増えていたことと、PDFやフラッシュ等アクセスが難しいとされていたものをOCRを活用して読めるように工夫されたソフトが目をひいた。

もとの紙に印刷されたものと同じレイアウトの表示と、文字の大きさや色などをカスタマイズした表示とを同時に画面に出せるソフトもあり、特に図が多用される理科や地理の教材に有効だ。これらの読み書き支援ツール(WYNNやKurzweil等)では、NIMASやDAISY等の代替フォーマットが開けるようになっており、メモの入力やテキストのコピー、ペンで色をつける等、紙の教科書でおこなうほとんどのことが画面上でできるようになっている。また、音声メモやテキストメモの機能も充実しており、それらを活用してテストの点数が上がったという研究結果の報告もあった。

 アメリカでは学習の支援においては、代替フォーマットの提供と支援ツールによる活用が中心である。2006年より連邦法で、障害のある生徒へのNIMAS(National Instructional Materials Accessibility Standard全国指導教材アクセシビリティー標準規格)による教科書の代替フォーマットの提供が義務付けられている。コミュニケーションの支援では、AAC(Augmentative and Alternative Communication)ツール、中でもピクトグラムを活用したコミュニケーション機器が多くみられる。肢体障害の読み書きの支援ツールとしては、多様な入出力スイッチが見られた。聴覚障害の支援では、インターネットを活用したリアルタイムのテキストや手話の通訳による電話の支援ツール等が見られた。セッションでは就労支援に関するものも多かった。

 2011年5-6月にDAISY (Digital Accessible Information System)規格とEPUB規格のバージョンアップが予定されており、MathMLが本格的にサポートされる。これにより、DAISYを採用しているアメリカのNIMASでもMathMLによる数式の記述が必須項目となり、教科書出版社がNIMAC(全国指導教材アクセスセンター)に提出するデータにはMathMLで数式の入力が義務付けられることになる。

このために、NIMASやDAISYの再生ができる支援機器は競ってMathMLのサポートを始めている。例えば、Freedom scientificのディスレクシア用の読み書き支援ソフトのWYNNは、講演会のセッションでMathMLをサポートした新しいバージョンを披露した。すでにサポートしているものには、Kurzweil3000、Read& WriteGold、EasyReader、ghのReadHear等がある。JAWS、HAL、Window-eyes等のスクリーンリーダでもMathMLはサポートされている。これらの一般的な読み書き支援ソフトがMathMLをサポートすることで、教科ごとに違うソフトを使う必要はなくなる。

写真:数式をサポートするソフトの比較表 写真:プレゼンの様子。数式のOCRについて

 1月26日、ATIAのプレカンファレンスと同じコンベンションセンターで、NIMASの理事会が開催され、会議にオブザーバーとして出席した。

CAST(特殊技術応用センター)、NIMAC、OSEP(連邦教育省特殊教育プログラム局)、BookShare、RFB&D(Recording for the Blind and Dyslexic)、全米出版協会、大学の研究所、DesignScience、DAISYコンソーシアム等から17人の理事が参加し、DAISY の新しい規格であるZedNextや、数式の入った文書に関して話し合われた。

写真:NIMAS理事会

 OSEPから、来年度のNIMAS関係の予算は約40億円と発表があった。

 NIMACに収められるNIMASファイルの数は毎年増えており、2011年1月時点で計23815ファイルが99の出版社からおさめられた。その中の5773は教科書であり、ダウンロードの63%は教科書である。すべての州のすべての教科書がNIMAS化されている。Webからの検索が充実してきており、誰でもNIMACとLouise database の蔵書が検索できる。ダウンロードをするには、ログインIDが必要で、IDがあれば、検索してすぐにダウンロードできる。(http://louis.aph.org/catalog/CategoryInfo.aspx?cid=152)

 図表などが入った複雑な文献のデジタル化は研究途上で、米国教育省によって設立され、Benetech社、WGBHの全米アクセシブルメディアセンター(NCAM)、DAISYコンソーシアムからなるDIAGRAM (Digital Image and Graphic Resources for Accessible Materials)センターでは、印刷物を読むことに困難がある人のためのデジタル教科書に、より効果的でコスト削減可能な画像や表の解説の入れ方の研究を行っている。(http://diagramcenter.org/)

 各団体でのサービスの質も向上しており、RFB&Dからは、教育省とgh社と協力して、無償の再生ソフトとTTS、64000のDAISY図書を提供する予定であると発表があった。プレーヤーはEPUBとMathMLもサポートする。また、Mac用のプレーヤーも提供する。Appleのistoreを学習障害者と視覚障害者に評価してもらっているとのことである。

 ルイビル大学、ケンタッキー大学等が共同でおこなった、数学のクラスのアクセシビリティの研究で、MathMLの入ったデジタルファイルの学習障害者による活用を調査した、SMARTerプロジェクトの報告があった。

学習障害者と視覚障害者は、必要な情報が違い、大文字・小文字や、式の始まり・式の終わり等の読み上げ情報は学習障害者には必要ないので、同じコンテンツで、再生ソフトが読み方を変える方法で対応した。数学の教科書をmathMLを使ってデジタル化し、TTSの読み上げを使ったところ、読みに困難のある学生だけでなくそれ以外の学生の成績も上がった。読みに困難のある学生の成績の伸びが一番良かった。来年度以降は、MeTRC (http://cate.uoregon.edu/index.php/metrc)で研究が継続される予定である。

写真:研究結果のプレゼンの様子

 教科書・教材だけでなく、試験問題のアクセシビリティも重要である。試験問題をアクセシブルにするためのアプリケーションとしては、FreedomScientific のTest Talkerや、ghのTest Hear等がある。Test Talkerでは、画面上に複雑なレイアウトの画像を表示し、その中のテキストをハイライトさせながら音声で聞くことができる。また、画面内の回答欄に回答を入力することができたり、選択問題にも対応している。理科等の試験問題ではよく、植物や人体の画像から線が引かれて部分を問われるようなものがあるので、日本でも活用できると便利である。

写真:研究結果のプレゼンの様子

 DAISY4(EPUB3)はHTML5を採用する。HTML5はほとんどのデバイス、ブラウザーが対応しているので、より一般的なデジタル書籍の出版者も参入できるようになる。すでに2百万ものEPUBの書籍がGoogleで入手可能である。

また、DAISY4は点字、拡大図書等のソースファイルとしても活用されるDAISY-AI(製作と交換フォーマット)と、多様なデバイスの画面サイズに対応できる機能などを持つ提供用フォーマットであるDIASY-dist(=EPUB3)に分かれ、ツールの開発や図書の製作と提供はよりシンプルになり、それにより、多くのソフトウェア会社や提供団体が参入しやすくなり、アクセシブルな電子書籍がより一般的なものになると考えられる。

 障害のある生徒だけでなく、障害のない生徒も、支援ツールの活用により成績が上がったという研究結果が報告されており、紙の読み書きだけではなく、音声・テキスト・画像・ビデオ等の多様なメディアやインターネットを活用した情報コミュニケーション技術の活用により、学習環境の幅が広がりつつある。弱視の当事者の発表で、「数式や地図などの教材は、視覚的情報、音声、点字のすべてを使って、その子どもにとって一番良くわかるように情報を提供するべきだ、普段音声や点字を使っている人でも、視覚的な情報により、より深く理解できる場合もある」という話が印象的だった。

 支援技術を選択する際には、障害種別のカテゴリーによる支援技術の選択ではなくて、ニーズをベースにして柔軟な思考で選択するのがトレンドであり、例えば、ClassMateはディスレクシアを主なターゲットに開発されたが、音声と画面表示の併用は弱視者も活用できる。また、学習障害者が視覚障害者用に開発された音声化機器を活用するなど、別のターゲットのためにつくられたツールを活用できることも多い。

 日本では、マルチメディアDAISY教科書の登録者数は700にもなっているにも関わらず、国の保証はなくボランティアが製作・提供を行っているが、リソース不足で製作・提供は一部の教科に限られ、高校の教科書も対応されていない。EPUBの改訂で日本語対応も進み、技術的な条件は整いつつある。今、提供・活用するためのシステムが必要とされている。

先頭に戻る


Copyright © 2024 ATDO
お問い合わせ